今回はビバップの巨匠にして「ジャズサックスの教科書」とも呼ばれるソニー・スティットの演奏を取り上げます。
いろんなサックス奏者の話を聞くと、スティットの演奏をよくコピーした、という人は多いみたいです。
この理由として、彼が残した作品の数があまりに膨大で、入手しやすいというのもあるでしょう。
確かリーダー作、サイドメンバーとしての参加作全てを合わせて、最も多作なジャズミュージシャンがスティットだそうです。
大小様々なレーベルに10枚、15枚単位で作品を残し、特に60年代の作品は録音状態が良好な盤も多く、もちろん演奏レベルも全て一定水準以上なので、「教材」として最適というわけです。
今回は1962年にプレスティッジに残した「Stitt Meets Brother Jack」から「All Of Me」を分析してみます。オルガンのジャック・マクダフと共演したソウルジャズ色の濃いナンバーで、ヴォーカリストによる名唱も多く残されたスタンダードですね。
ここでのスティットのテナー、マクダフのオルガン共にねっとり、こってりとして実にエロい。こういう黒っぽさ、エロさ、濃さは確かに人を選ぶかもしれませんが、黒人音楽の原点でもありますよね。ユニセックスな清潔感に溢れる(?)今のアメリカのジャズシーンに少し足りない部分だと思いますがどうでしょうか。
keyはCメジャー、動画の譜面は実音での採譜です。
まずサブドミナント代理のDm7(Ⅱm7)、これに対するセカンダリードミナントとなるA7上でのフレーズです。(0:16~019)
マイナーへ向かうドミナントコードですので、B♭という♭9thの音を使いたいところですが、ここではミクソリディアンスケールによるシンプルな節回しですね。
もう一つのセカンダリードミナントであるE7上のフレーズ。(0:24~0:28)
最初の小節は単にルート音から5度までダイアトニックに上昇するだけです。しかし次の小節は♭9thのF、♭13thのCというオルタードな音使いで攻めていますね。
次はとても短いフレーズです。(0:56~0:59)
コードの変化を少ない音数で表現しているいい例です。FM7では長7度に当たるE、そしてFmになると半音下げて短7度に当たるE♭を出し、メジャーからマイナーへと変わるコード感を表現しています。
今度は少し長いです。(1:00~1:07)
最初のEm7はCM7と同じトニックに属する代理和音です。つまり、CM7をEm7に変えたCメジャーの循環進行ですね。このフレーズを他のkeyに移し替えて練習すれば、さまざまな場面で使えると思います。
最後にメジャーのⅡⅤです。(1:09~1:12)
これも同様にいろんなkeyで練習しましょう。意外と2拍ずつのコードチェンジ上でのフレーズは使いまわしが効きますので。